円周率>3.05の証明と理系教育

電車の中で、円周率は3.05より大きいことを証明せよ、という問題を見つけた。この問題は、シンプルだが考えさせる面があり、入試問題としては良問と思われる。

この問題を見たとき、いくつかの解法とともに、円周に内接する多角形と比較し、n角形の場合の一般式を立てることは難しくなく、あとはnを大きくすればよいということは、すぐ思いついた。

しかし、任意の角度の三角関数の値は、電卓やコンピュータが持ち込めない試験会場では求めることができないので、三角関数の公式等を覚えていないと解くのは苦労するだろうなと電車の中で思った。

受験生は、三角関数の公式などを暗記しないと受からないのだろうか(基本的な公式だが、暗記が大の苦手な人には覚えるのはきついかもしれない)?やはり記憶力で差がつく側面もあるのかと、配点の仕方に興味を持った。

また、創造力中心の問題や社会との関係を考えさせる問題に改題できないだろうか。日本の理系教育のための改題を考えた。

I.理科系教育は、暗記中心になり、創造力が軽視されている

1.暗記力が良い人が入試で有利になること

 大学入試の場合、基本的な公式も暗記できないほど記憶力が悪い人は不利になるだろう。

 しかし、そういう人の中にエジソンのような大発明をする技術者が存在するかもしれない。

 現在では、インターネット等が発達して記憶力の重要性は相対的に減っており、実社会では記憶力が悪いことはハンディにはならないだろう。ユビキタスの時代には、モバイルコンピュータで検索してもよい。

 考えさせる良問でも、部分点の配点をうまくしないと記憶力で差がついてしまうかもしれない。

 上記の問題も、円周に内接する多角形を考えることは、多くの人が思いつくだろう。

 また、洋の東西を問わず、昔の人が円周に内接する多角形により円周率を近似的に求めていたことを知っている人もいるだろう。江戸時代の和算の話をおぼろげに覚えている人もいるだろう。

 そうすると、受験者の間で差がつくのは、半端な角度の三角関数の値を避けて、三角関数の公式を使って計算をするところだろうか?

 あるいは、円周率とは何かという基本的なところに立ち戻っていくかによって差がつくのかもしれない。円周率を、直径が1とした場合の円周の長さとすると、直径の2倍より円周が長いことは明らかなので、円周率は2以上であることはすぐわかる。この思考法を拡張していくということなのであろうか?

 部分点のつけ方によって差がつくが、以下のような流れの答案だと何点つくのだろうか。

 「円周率は円周と直径の比と定義される。すなわち、直径を1とした場合の円周の長さが円周率となる。
 直径の両側の円弧の長さはそれぞれ直径より長い(ユークリッド空間の2点の最短距離は直線である)。よって、直径の両側の円弧の長さの和(円周の長さ)は、直径の2倍より大きくなるので、円周率が2より大きいことが証明できる。
 この思考法を応用し、次に円周に内接する正方形を考えれば、正方形の外周は2ルート2=2.8・・・なので、円周率が2.8・・・より大きいことが証明できる。
 同様に、円周に内接する六角形を考えると、その外周は3であるので、円周率が3より大きいことが証明できる。
 n角形の場合の一般式を立てると、n角形の外周の長さは、n×sin(180/n)となる。nを大きくしていくと、円周率に近づいていく。
 電卓に、ある程度大きなnを入力すれば、円周率が3.05より大きいことが証明できる。」

 基本的な考え方の筋道が示してあれば、かなりの部分点がもらえるのだろうか?それともあまり点はもらえないのか?

 ちなみに電卓に入れてみると、
 n=7   3.037186173822907
 n=8   3.0614674589207182
 n=12  3.105828541230249
 n=100 3.141075907812829
 n=180 3.141433158711032

 入試会場では、8角形で試みるか、12角形で試みるかであろう。

2.創造力を測る入試にすべきであること

 この問題を見たときに、他のいくつかの解法を思いついた。

 1.円周率を、何らかの級数展開等で表せば、ある程度のところまで演算すれば、それより大きいことが分かる。
   何万桁以上求める人もいるのだから、3.05より大きいことは示せるだろう。

 2.3.05より大きいことなら、3.14とはかなり差があるので、コンピュータ上で円を書いて、ドットの数を調べれば示せるだろう。

 3.方眼紙を使っても、3.05程度なら、証明できるかもしれない。

 4.円周率はすべての円について一定であることを定義し、一つの円について円周率を求めれば、すべての円について証明することにな
   ることを言う。その後、解答用紙に円を書き、解答用紙の下部をはさみで細長く切り、丸めて書いた円に沿って合わせ、その後伸ばし
   て長さを直径と比較する。3.14だと微妙だが、3.05より大きいことなら示せるであろう。

 5.解答用紙の代わりに髪の毛を使ってもよい。

 6.円に内接する六角形を考えると円周率が3より大きいことは簡単に分かる。円弧の一部と正三角形の一辺の長さの差が1.05倍より
   大きな差があることを、上記4、5の手法で示す。

 7.円周率が3.14・・・であるという確かな教科書を見つけ、その権威により3.05より大きいことを示す。

 これらの手段が入試でどう扱われるかは分からないが、おそらくだめであろう。1、2、3はコンピュータ、方眼紙、コンパス等がないと無理そうだ。また、4、5、6は厳密な数学的証明とはみなされないだろう。髪の毛を使ったり、解答用紙を切ってはいけないとされているかもしれない。7は、題意に合わないとされるだろう。

 しかし、実社会では、「入試」のように紙と鉛筆しか使えないわけではない。また、採りうる手段に制限があるわけでもない。コンピュータは使えるし、本は参照できるし、インターネットの助けも借りることができる。

 「円周率が3.05より大きいことを証明する方法を、厳密な数学的証明にはなっていないものも含め、できる限りたくさん挙げよ」という問題を出題するのはどうだろうか。

 実社会で、理系に必要なのは、創造力である。大きな発明は、荒削りでも破天荒なアイディアから出てくることが少なくない。創造のためには、くだらないものも含め、数多くの手段を挙げる能力が重要である。日本の入試は、創造力を図る問題に転換しなければならないだろう。

 理工系の地位向上運動においても、数々の独創的なアイディアが必要となるだろう。創造力こそ、理系に必要なものである。

 上記のうち、実社会で最も強力な手段は7であろう。円周率が3.14・・・であることは、教科書に載っている。そして、それは多くの人によって、既に数学的に証明されている。よって、3.05以上であることは簡単に証明できる。もっとも、入試では点はもらえないだろう。

 実社会で、このような数学的な問題が生じた際に、円周率が3.05であることを証明できる人を雇うというのも、立派な手段である。

 ある技術者Aが、会社の文科系の社長Bが、細かい技術的な話をしたのに理解できなかったため、社長が能力がないとばかにした。社長Bは言った。「私は、多くの技術者を雇っている。私は彼らに頼んで、そのような細かい技術的な問題を解決させることができる。」

 社会の中で正しいのは、技術者Aであろうか、社長Bであろうか。社長Bが正しいのではないだろうか。

 入試では点がもらえないだろうが、日本では、社長Bのように考える文系の人の方が社会で成功する可能性が高いのである。 

3.社会的な関心を理系教育においても重視すべきこと

 数学は、社会と切り離されているわけではない。数学の社会における応用についても考えさせる数学の試験問題があってもよいだろう。

 数学者の地位向上には、数学を社会とのかかわりあいでとらえていく必要がある。数学と人間社会とのかかわりも、数学の一部であるという考え方を広めていく必要があるだろう。

 理系教育は、社会に無関心な理系人間を作るものであってはならないであろう。

 社会的に無力な理系人間を大量に養成し、理系人間が地位向上に無関心で、もくもくと働いてくれたら日本の将来は安泰だろうか。

 日本の理系教育は、まさにそういう理系人間を作るような教育になってしまっている。

 たとえば、学校教育では、因数分解が何に役に立つのかは教えない。ただひたすら、因数分解をもくもくと解くことを要求する。

 因数分解なんて、実社会に出たら役に立たないということに気づいた賢い人は、理系コースに苦痛を感じ、文系に進む。中学や高校のときから、人間や社会に大きな関心を抱く人も文系に進む。これらの人々から、やがて社会的に高い地位の人が輩出されるのである。文系は、実社会の現実を見ているのである。

 「因数分解が実社会の中でどのような役割を果たしているかについて説明せよ」という演習問題も面白いだろう。

 おそらく白紙答案が続出するであろう。高校で因数分解を何十時間習っても、演習問題では、このような視点の問題は出ないだろう。

 暗号理論等で因数分解が使われているとか、因数分解を応用すれば日常の計算を工夫して楽にできるとか、量子コンピュータの能力を測るために使われるなどの解答がありうるだろう。不等式の解法が社会に役立つことを示し、因数分解は不等式などの解法を支えて間接的に社会に貢献していると解答するのも、高校の知識の範囲内で思考力でひねり出すことができる一つの解答だろう。

 いずれにせよ、数学と実社会とのかかわりあいについて考えさせる必要があるだろう。どのような応用があるかについての知識を暗記しているかどうかを試すのは意味がないので、考える姿勢があれば大きな部分点をあげることにすればよいだろう。

 試験の解答とは関係ないだろうが、本問題の出題者も、円周率=3ではないという問題を出すことを通じて、ゆとり教育の意義について考えているのかもしれない。

II.理系が社会とのかかわりあいを考える理科系教育

入試問題作成者に望むこと

 インターネットが普及した現代において、暗記力に偏らない、現実社会を念頭においた入試問題を作ることが重要であろう。

 実社会に出れば、理系の問題は、現実社会とのかかわりあいにおいて存在するものだからである。

III.解答について

円周率は3.05より大きいことを証明せよ、という問題は、東大入試の過去問のようで、解答を城南予備校が出しているようだ。
http://www.johnan.jp/updata_img/pdf/answer.pdf

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